社長メッセージ

社長インタビュー

Q. MVP-22計画初年度の経営環境と実績をどのように捉えていますか?

社長メッセージ

代表取締役社長 門田 道也

2019年3月期の経営環境は、国内の製造業の生産活動が概ね堅調に推移しましたが、第3四半期以降は、中国景気の減速やスマートフォン販売の停滞などの影響により、関連産業の生産活動が低下しました。クリタグループにとって主要市場である電子産業分野においては、半導体、電子部品、ウェハといった分野の設備投資が活発で、鉄鋼や石油化学などの産業でも、設備の老朽化対応や更新需要が底堅く推移しました。また、渇水、豪雨、台風など気候変動に起因すると思われる自然災害が多く発生したこともあり、事業継続計画(BCP)に対応した水処理ニーズも高まりました。

海外においても国内同様、全般的に製造業の生産活動が堅調に推移しました。一方、中国、韓国、台湾といった東アジアの電子産業では、年央以降、設備投資が減速しました。また、米中貿易摩擦の影響により、中国におけるFPD、半導体向けの設備投資が先行き不透明な状況となりました。

このような環境下、業績は堅調さを維持することができました。受注高は、水処理薬品事業では、2018年3月期の第4四半期に連結子会社となった韓国の(株)韓水の連結対象期間が11ヵ月分増加したことにより増加しましたが、海外での装置受注が減少した水処理装置事業では減少しました。売上高は、水処理薬品事業が受注高の増加を背景に増収となったことに加え、水処理装置事業も大型案件の工事進捗により増加しました。営業利益は、原価率の悪化や販売費及び一般管理費の増加があったものの、増収効果がこれを上回り増益となりました。事業や資産の合理化に伴う特別損益の計上により税金等調整前当期純利益は増加となりましたが、特別損失計上に伴う税金費用の一時的な増加により親会社株主に帰属する当期純利益は若干の減少となりました。

MVP-22計画初年度の実績を振り返ると、重点施策である①CSVビジネスの展開、②総合ソリューションの拡充、③プラント生産体制の再構築、④低採算事業と資産の合理化、は順調に進捗し、目標とする収益基盤の確立に向け着実に前進できたと捉えています。

まず、CSVビジネスの展開と総合ソリューションの拡充については、核となるソリューションモデルのプロトタイプを開発しました。具体的には、排水の再生水供給契約や蒸気使用量削減契約などで、お客様とメリットをシェアするサービス契約型ビジネスモデルです。例えば、再生水供給契約では、当社が排水回収システムを所有した上で、お客様の工場排水を回収リサイクルし、再生水としてユーティリティ設備や空調設備、製造プロセスに供給します。工場全体の大幅な水回収率の向上や安定した水処理の実現を通して、水資源問題の解決やお客様の人手不足の解消など、社会やお客様価値の創造を具現化するものです。

次に、プラント生産体制の再構築については、国内におけるお客様の設備投資の活況を背景に、水処理装置事業の生産ひっ迫と追加原価の発生という課題が顕在化したことで、施策の進捗が加速しました。設計の分業制の導入、不具合が生じた事例のデータベース化、ICTツールの導入による設計と生産の精度向上といった施策を講じたことで、プラントの生産体制が強化されました。

さらに、低採算事業と資産の合理化については、非中核事業であったクリタ・ヨーロッパGmbHのアルミナ化合物事業を売却したほか、政策保有株式の売却を進めました。バランスシートの圧縮と経営資源の成長事業への投下を進めることで、資本効率の向上を図りました。

M&Aも積極的に推進しました。まず2018年5月に、水と環境の分野で人工知能/機械学習(AI/ML)を活用した新たなデジタルビジネスの創出を目指し、米国で水道管の劣化予測ソフトウエア・サービスを展開するフラクタ, Inc. (現クリタ・フラクタ・ホールディングス, Inc.)の株式を取得し子会社化しました。2019年3月には、米国において水処理薬品と水処理装置を製造・販売するU.S.ウォーター・サービス, Inc.を買収したほか、半導体向けの精密洗浄事業を展開するペンタゴン・テクノロジーズ・グループ, Inc.の25%の株式を取得する契約を締結するなど、米国での総合ソリューション展開に向けた事業基盤の整備が進みました。

U.S.ウォーター社の買収により、2020年3月期の海外売上高比率は40%を見込んでいます。2015年の欧州における水処理薬品事業の買収に始まるグローバル競争を勝ち抜くためのM&Aは、日本、アジア、欧州、北南米におけるバランスの取れた事業基盤構築という成果に至ったものと捉えています。

グループ経営を支える仕組みとしてのコーポレートガバナンスの強化にも取り組みました。2018年3月期の取締役会の実効性評価の結果を受け、当社の取締役選任の判断の客観性と選任プロセスの透明性を高めることを目的に、これまで監査や報酬の仕組みに比べ整備が遅れていた経営層の育成・評価の仕組みを構築しました。外部機関のノウハウも採り入れながら、社長や取締役の後継者候補の育成と選定の仕組みを体系化するとともに、社外取締役と社外監査役を中心メンバーとする後継者育成会議を新たに設置しました。

このように多くの成果があったMVP-22計画初年度ですが、さまざまな課題も見えてきました。CSVビジネスの展開と総合ソリューションの拡充について、ソリューションモデルの開発、つくり込み、展開、実績拡大までの時間軸で見たとき、ここまでの進捗のスピードは必ずしも満足のいくものではありません。総合ソリューションを展開するための組織についても、形としての変化は着実に遂げているものの、社員一人ひとりの行動や意識の変化は不十分だと捉えています。今最も必要なのは、短期的な業績の確保ではなく、中長期にわたり持続的な成長を実現するために必要な事業モデルと人材の基盤づくりと考えています。

Q. 2020年3月期の方針や施策はどのようなものですか?

MVP-22計画の2年目となる2020年3月期の最優先課題は、総合ソリューションの展開の加速です。計画の1年目は、新たなソリューションモデルの開発に取り組み、数十のプロトタイプを開発しました。また、1年目の下期からは、このプロトタイプから個々の契約に展開するための技術・商品・サービス・売り方のつくり込みに着手しました。2年目はこのつくり込みを継続するとともに、遅れていた総合ソリューションモデルの水平展開を開始し、収益貢献の核となり得る5から10のモデルで実績を上げることを目指します。

総合ソリューションの本質は、お客様の目線での技術・商品・サービスの新たな用途開発であり、お客様を深く理解することから始めなければなりません。MVP-22計画の基本方針は、「既成概念を壊し、仕事の品質とスピードを飛躍的に高め、顧客親密性を最大化する。」というものです。お客様の目線で新たな発想を生むためには、従来の事業の縦割り意識や成功体験に基づく既成概念を打破する必要があります。クリタグループの一人ひとりがマインドセットを変革しなければならないのです。

また、総合ソリューションを提供するためには、営業、マーケティング、生産、開発の連携が不可欠です。この連携を強化するために、2019年4月より、国内の営業体制を従来の2営業本部体制から1営業本部体制に変更し、お客様視点の市場別・地域別の営業体制を一層推し進めた形にしました。組織の変化が社員の発想の変化につながる効果も期待しています。

これと同時に海外においても、生産拠点や販売拠点の統廃合を進めることで、水処理薬品と水処理装置を融合した総合ソリューションを展開できる体制に変革します。特に2020年3月期は、米国における事業体制確立に向け重要な一年と位置付けています。U.S.ウォーター社のPMI(買収後統合作業)として、従来からの子会社であるクリタ・アメリカ Inc. やフレモント・インダストリーズ, LLCとの生産・購買・販売機能の統合に加え、2019年5月に買収したアビスタ・テクノロジーズ, Inc. のRO薬品に関わる技術と事業モデルを展開することで、全米で効率的に総合ソリューションを提供できる体制の構築を目指しています。現地のお客様の課題やニーズを深く理解した新たなサービスを提供することを通じて、2021年3月期以降の業績への貢献を目指しています。

今後のM&Aにつきましては、アビスタ社の買収が一つの方向性を示しています。同社は、事業規模は売上高で数十億円と大きくはないものの、RO薬品の分野で特長ある技術と事業モデルを有しており、米国と英国を基盤として高い収益性を実現してきました。当社グループでは、同社の技術と事業モデルを欧州、中東、アジア、米国に展開することで、今後成長が見込めるRO薬品の市場で世界シェアNo.1を目指しています。この事例のように、当社グループが持っていない特長ある技術や商品を保有する会社を今後のM&Aのターゲットとしていく考えです。

2020年3月期においても、非中核事業の整理や低採算事業の縮小といった取り組みを進めていきます。もちろん、現在低採算の状態にある事業も、サービス契約化をはじめとした収益性改善の取り組みにより現状から脱却できることが最善ですが、採算の改善が見込めないときは、整理や縮小といった判断も必要です。事業の収益性を評価し、整理や縮小の判断をする上で、2019年3月期に導入した事業別のROIC管理は有効であると考えます。ROICの目標化やROICツリーの作成を通してツールとしての有効性を高め、各事業の資本効率の改善につなげたいと考えています。

Q. 中長期的に経営が目指すのは、どのようなことですか?

経済のグローバル化と技術革新が引き起こした格差の拡大は、社会の分断や政治の不安定化をもたらしています。ブロック経済化の進展や貿易摩擦の激化は、事業の見通しを不透明にし、投下した経営資源を回収できないリスクにつながります。

水処理市場に目を向ければ、社会と産業のデジタル化により、FPD、半導体、ウェハ、電子部品といった電子産業の市場拡大や、スマートファクトリー実現に向けたIoT、AIを活用した新たな水処理市場が大きなチャンスとして見込まれます。しかし同時に、イノベーションの流れに乗り遅れれば、既存のビジネスモデルが陳腐化するリスクも存在します。クリタグループは創立以来70年にわたり、水と環境という恵まれた事業領域の中で、知見と技術力を活かした競争優位性のあるビジネスモデルにより安定した成長を実現してきましたが、そのビジネスモデルが通用しなくなり市場から駆逐されるリスクがあるのです。

この先行きが不透明で、変化の激しい経営環境を乗り越え、グループの飛躍のチャンスを活かすために、現在進めている変革を成し遂げなければなりません。持続可能な社会の実現に向け、水処理による総合ソリューションが大きな社会的価値を創造することは可能であり、クリタグループは社会からその実現を期待されていると感じています。

水と環境に関わる課題にソリューションを提供し、社会と産業の発展に貢献することこそ、クリタグループの存在意義です。今一度、創業の精神に立ち返り、水処理を通して、淡水の欠乏、気候変動、天然資源の減少といった持続可能な開発目標(SDGs)が示す社会的課題の解決に向けて貢献し、社会との共通価値を創造することで企業理念の実現に努めたいと考えています。

さらに、クリタグループがグローバルにサービスを提供する企業集団として飛躍するために、ダイバーシティとローカリゼーションを重視した経営が必要であると考えます。多様性を受け入れられる企業こそが、激しい環境変化に対応し成長できます。自前主義を捨てオープンイノベーションを起こせる人材の育成や登用も進めていきたいと考えます。これと同時に、世界のさまざまな国でソリューションを展開する上では、価値創出のプロセスや収益獲得の方法を各地域の実態に即した形に最適化する必要があります。ダイバーシティとローカリゼーションの推進により、激しい環境変化に対応し成長を実現する企業集団をつくりたいと考えています。

Q. 資金の使い方と株主還元の方針はどのようなものですか?

株主の皆様からお預かりした資金は、確固とした収益基盤を確立するため、成長事業に積極的に投資していきます。2019年3月期においては、超純水供給事業や精密洗浄事業といった高い収益性が見込める事業設備への投資に加え、事業基盤や新技術獲得のためのM&Aに積極的に資金を振り向けました。資金の源泉としては、営業キャッシュ・フローだけでなく、政策保有株式の売却によっても資金を確保し、手元資金も活用しました。

今後も成長事業への積極的な投資は継続する考えですが、投資を行う上では、投資の規律を重視し資本効率を意識した経営を行っていきます。資金の源泉としては、これまで同様、営業キャッシュ・フローに加え、政策保有株式の売却も継続します。また、さらなる資金需要に対しては負債の活用も選択肢に、資金の源泉の多様化も進めていく考えです。

株主還元につきましては、配当性向30~50%を目安に、可能な限り増配の継続に努めていきます。2019年3月期の剰余金の配当により15期連続の増配となりました。資本効率を意識した経営を行うため、余剰資金が積み上がる場合は、株価の状況も勘案しながら自己株式の取得も検討していきます。

クリタグループの確固たる収益基盤の確立に取り組み、その成果についてはステークホルダーの皆様への還元に努めてまいりますので、皆様には、現在進めております変革の取り組みに対して引き続きご支援を賜りたく、よろしくお願いいたします。

2019年7月

代表取締役社長
門田 道也

※このページは、統合レポート2019の社長インタビューを掲載しています