社長メッセージ

社長インタビュー

社長メッセージ

クリタグループはどのような企業でしょうか。
また、社会からどのような期待をされていると考えていますか?

クリタグループは、1949年の創業以来、74年間にわたり産業の水処理に携わってきました。水処理はもともと社会への貢献が高いビジネスですが、水資源や気候変動問題、循環型経済社会の構築といった社会課題への意識の高まりに伴い、私たちのビジネスに対する社会からの期待が以前よりも高まっていることを実感しています。

当社グループに対して水をきれいにする会社というイメージを持たれている方々が多いのではないかと思いますが、私たちはそこにとどまらず、水を起点に社会や産業に多様な価値を提供しています。例えば、モノを熱する・冷やすという工程の媒体として水は幅広い産業で使用され、このような工程には必ずGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出を伴います。水そのものだけではなく、水の用途や役割を含めて、お客様のニーズや潜在的な課題に適したソリューションを提案し、お客様の工場の生産性向上に加えて、節水やGHG排出削減にも寄与することができます。また、水から取り除かれたものに目を向けると、これまで廃棄していたものを資源として回収・再利用し、資源循環に貢献することが可能です。社会・産業の課題解決を通じて培われた知恵や経験から新たな価値を創出し、持続可能な社会の実現と幅広い産業の発展を支えることが、私たちが社会から期待されていることであると考えています。

クリタグループが中長期的に目指している姿を教えてください。

クリタグループが目指す姿は、まさに企業理念である「“水”を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」の実現に尽きると考えています。

私たちは、水を必要とする現場であれば、産業を問わず工場のあらゆる場所に接点を有しています。お客様の事業規模、生産製品などにより、必要とされる水の量・質や抱えている課題は異なり、最適なソリューションも多種多様です。こうした多様な現場からのニーズに応えるために生まれた知恵や経験の蓄積である「水に関する知」が、私たちの競争力につながっています。

私は、企業理念の実現に向けて、これまで培ってきた「水に関する知」を、形式知としてグループ内で共有し、世界のさまざまな現場で正しく活用できる状態を早期に実現することが重要であると考えています。そのためにも、目指すべき姿を明示し、各組織のベクトルを合わせていくことが私のミッションです。世界中の現場接点で、お客様や社会にとっての価値を創出し続けることで、クリタグループが持続的な成長と企業価値の向上を遂げ、新たな接点を獲得していくという好循環を生み出していきたいと考えています。

前中期経営計画「Maximize Value Proposition 2022」の振り返りをお聞かせください。

Maximize Value Proposition 2022(MVP-22)では、確固たる収益基盤の確立を目指し、ビジネスモデルの変容とビジネスプロセスの変革に挑戦しました。これまでの計画期間は3年でしたが、中長期的な視点で目指す姿を議論し変化を捉えていくために5年の計画にしました。MVP-22では、収益性と資本効率を重視した経営目標を設定しましたが、事業利益率は11.2%にとどまり、経営目標としていた事業利益率15%、ROE10%には届きませんでした。

一方で、成果もありました。まず、グローバルでの事業基盤の確立です。M&Aやオーガニックでの成長により、海外の売上高比率は約50%にまで拡大するとともに、日本・アジア・北南米・EMEAの世界四極体制を確立しました。また、RO膜関連分野のソリューション展開プロジェクトである「Project Acorn」や、グループにおける調達および製造の最適化プロジェクト「Global Supply Team」などのグループ内でのシナジー創出が進みました。次に、価値起点の高付加価値モデルの創出・展開です。継続契約型サービスやCSV(Creating Shared Value)ビジネスの展開に注力した結果、お客様が向き合っている課題を深く理解し、提供価値を可視化した製品・サービスが成長のドライバーとなることをあらためて認識しました。続いて、DXやイノベーションの推進です。これらを価値提供のための重点課題として捉え、フラクタリープ社とのメタ・アクアプロジェクトや、Kurita Innovation Hubの設立によって、今後の本格的な取り組みに向けた基盤や体制を整備しました。また、社員の変革への意識醸成が進んだことも大きな成果です。水処理薬品・水処理装置の事業別組織を統合させたことに加えて、COVID-19というさまざまな行動が制限される環境下において、お客様のニーズに一つ一つ創意工夫で応えていったことが変革への意識を加速する機会となりました。

これらにより、収益性向上に向けた基盤が構築でき、これまでの変革を実績に結び付けるステージへと移行できたと考えています。COVID-19が収束に向かう中、世界経済が動き出したことはチャンスと捉えられますが、地政学リスクの高まりや気候変動問題など、クリタグループを取り巻く外部環境は不確実性が高まり、将来の予測が困難になっています。このような状況下において、複雑な経営判断をスピード感をもって行っていくためには、経営も監督と執行がその機能をより強く発揮していかなければなりません。

  • 従来に比べ節水・GHG排出削減・廃棄物の資源化または資源投入量の削減に大きく貢献する製品、技術、ビジネスモデル

新中期経営計画「Pioneering Shared Value 2027」の位置付けを教えてください。

MVP-22で取り組んできた価値を起点とした事業展開をさらに深化・加速させるのがPioneering Shared Value 2027(PSV-27)です。サステナビリティを経営戦略の中核に位置付け、クリタグループの経済価値の向上と社会価値、顧客価値の向上を結び付けた取り組みを強化していきます。

まず、この計画を進めるにあたって、お客様の産業ごとに特化した組織体制に移行させました。お客様が私たちに求めるのは、水処理薬品や水処理装置といった製品ではなく、それを使って生み出される価値です。そのためには、私たちがお客様の事業を深く理解し、価値をワンストップで提供できる体制を整える必要があります。

半導体を中心にグローバルに成長が見込まれる電子産業では、生産開始のタイミングが収益に大きく影響することから、設備投資の検討から実行までの期間をいかに短縮化できるかが重要な価値になります。これに対し当社グループ全体の電子産業向けの営業・生産・開発の機能を1つの組織に集約させることで、電子産業に重点的に対応する体制を整えました。その上で、多様なサービス事業のラインナップや、その組み合わせによって、お客様層と適応領域の拡大を図っていきます。例えば、純水処理や排水回収といった機能に特化した規格型サービスや、既存設備を活用した水供給サービス、ユーティリティを含めた工場運営のトータルコスト削減提案といった従来の水供給サービスを多様化・深化させることで、お客様によって異なる課題や価値の優先順位に対応したソリューションを提供します。また、各国で半導体の生産能力の増強が進む中、欧米での事業基盤獲得は重要な課題です。北米では、薬品・メンテナンスも含めた事業基盤の確立を目指し、事業体制を早期に構築することに挑戦します。欧州では、2023年7月にアルカデ・エンジニアリング社を買収し、電子産業向け水処理装置事業における製造拠点とサプライチェーンを獲得しました。精密洗浄事業も、電子産業の成長とともにニーズ拡大が期待できる分野ですが、お客様の工場稼働と密接に連動するため、シリコンサイクルの影響を受けやすいという課題があります。日本のクリテックサービス社と米国ペンタゴン・テクノロジーズ社の一体運営を図り、お客様の設備投資に合わせたタイムリーな投資を行うとともに、お客様層の拡大・多様化や、新技術の導入、洗浄の自動化による生産効率の改善を進め、電子産業向けビジネスにおける安定的な収益の柱へと成長させていきます。

一般産業のお客様にとって非財務の価値の重要性が高まっており、いま各企業がGHG排出削減をはじめとした環境・社会へのインパクトを重視した事業運営に注力されています。地域・市場特性を踏まえながらお客様が求める価値に沿って適切かつ迅速な対応を行うため、4つの地域を統括する組織を設置し、CSVビジネスの展開を強化していきます。また、新事業の創出にも取り組みます。クリタグループの水処理技術のノウハウと現場接点の強みを十分に発揮させるとともに、新領域における知見や経験を持つ他企業との協業も視野に、将来の成長の柱となる事業を育てていきます。

これらの事業戦略を支える中期的な経営資本として、特に重要と考えるのが人的資本と知的資本です。企業活動の原動力は人材です。強くしなやかにお客様と真摯に相対していく人材を育て、高いモチベーションを維持していく上で、クリタグループの目指すところである企業理念と企業ビジョンの浸透は不可欠であると考えています。PSV-27の策定にあたり、その前提となる考え方として、クリタらしさをより際立たせ、グループ社員の共感を呼ぶような理念体系となるよう見直し、企業ビジョンを改定し、クリタグループが大切にする価値観を設定しました。これらを世界中の社員一人ひとりが理解し、「持続可能な社会の実現に貢献する『水の新たな価値』の開拓者」となってもらうために、すでに策定した人材戦略のもと、グループ全体で多様な人材がイノベーションを創出しやすい組織づくりに取り組みます。マネジメントとして日々感じるのは、クリタグループの社員は社会やお客様の課題解決に対して非常にモチベーションの高い集団であるということです。彼らのモチベーションを引き出し、パフォーマンスを最大化できるような環境づくりと方向付けを行っていくためにも、私自らが社員と接する機会を積極的に作っていきたいと考えています。知的資本については、自社の知的財産を管理するだけでなく、お客様や他社の特許情報を積極的に解析するなど知的財産を事業の起点として捉え活用していくことが重要です。解析から導かれるニーズや競争環境の理解から技術開発の進むべき方向性を明確に示し、グループ全体でイノベーションを推進します。

また、当社は2023年6月の株主総会をもって、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行し、執行と監督を明確に分離する体制となりました。監督においては多様なステークホルダーの視点を踏まえた監督に注力し、執行においては監督側の知見や適切なモニタリング機能を活かし、より迅速かつ果断な意思決定を行います。

これらの取り組みによって、PSV-27の最終年度には売上高4,500億円、事業利益率16%、ROE12%以上、ROIC10%以上を目指します。継続契約型サービスや精密洗浄事業、CSVビジネスといった提供価値を起点としたモデルを拡大させることで、トップラインの成長と収益性向上を図りつつ、資本効率も改善させていく計画です。また、CSVビジネスから生み出されるお客様への節水やGHG排出削減、資源化・資源投入削減に対する貢献といった共通価値テーマ目標、人材育成やイノベーション、品質・安全、コンプライアンスといった経営・事業活動の基礎とすべき基礎テーマ目標を非財務指標として掲げ、社会とともに成長するクリタグループを目指します。

ステークホルダーの皆様には、クリタグループの取り組みに引き続きご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

2023年7月

代表執行役社長 江尻 裕彦

※このページは、統合レポート2023の社長インタビューを掲載しています。